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大阪地方裁判所 昭和60年(わ)127号 判決

主文

被告人を懲役二年及び罰金一五万円に処する。

未決勾留日数中七〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤三三袋(昭和六一年押第一二〇号の一の1乃至15、二の1乃至5、三の1乃至5、四の1乃至5、五乃至七)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一  昭和六一年一月一二日ころ、大阪市西成区萩之茶屋一丁目三番二三号市営萩之茶屋住宅八階八一七号室の自室において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇五グラムを水に溶かし、自己の身体に注射して使用し、

第二  同月一三日午前七時一五分ころ、右自室において、営利の目的でフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶一七・三九六グラム(昭和六一年押第一二〇号の一の1乃至15、二の1乃至5、三の1乃至5、四の1乃至5、七はその鑑定残量)を、非営利の目的で前同様の覚せい剤結晶〇・一八一グラム(同号の五、六はその鑑定残量)を、それぞれ所持し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に、判示第二の所為のうち営利目的所持の点は同法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項に、非営利目的所持の点は同法四一条の二第一項一号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、判示第二の所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い営利目的所持罪の刑で処断することとし、判示第二の罪について所定刑中情状により懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で、また罰金刑についてはその所定金額の範囲内で、被告人を懲役二年及び罰金一五万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中七〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、主文掲記の押収物件は、判示第二の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

被告人は、昭和五〇年ころ覚せい剤の味をおぼえ、一旦やめたものの昭和六〇年八月ころ再びその使用を始め、同年一二月ころからはほとんど毎日のように使用してきたものであるうえ、自ら使用するにとどまらず妻にも注射してやつていたこともうかがわれ、被告人の覚せい剤に対する親和性はかなり強いものであるということができ、また、同年九月ころからは屋台の客である佐藤という男に覚せい剤の売却を頼まれたのをきつかけに覚せい剤の密売にも手を出し、以後本件で逮捕されるまでの間に、被告人の述べるところによれば合計約九〇グラムもの覚せい剤を売りさばき約九〇万円の利益を得ていたというのであるところ、このような背景事情や、今回営利の目的で所持していた覚せい剤の量も一七・三九六グラムと少なくはないことに徴するとその営利性は強いといわざるをえず、したがつて、本件の犯情は到底軽視しがたいものである。

覚せい剤事犯の撲滅は社会の切なる願いであり、とくに営利を目的とする行為に対しては法も厳重な処罰を要求しているものであつて、被告人が覚せい剤の密売に手を出した原因が生活苦にあること、前科としては罰金前科が四件あるのみであること、被告人は妻と子二人をかかえ一家の支柱であること、今回の公判審理の過程を通じて反省を深めていることなど被告人に有利な事情を勘案しても、本件の罪質や前記の犯情に照らすならば懲役刑及び罰金刑の実刑をもつて臨まざるをえないと考え、主文のとおりの量刑をした次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青野 平 裁判官小林秀和 裁判官岡 健太郎)

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